世代会計入門/Generational Accounting





はじめに
   世代会計の説明に入る前に、なぜ、世代会計の考え方が重要になってきていると考えているかと言うと、日本経済が低成長もしくはゼロ成長時代に突入したということが挙げられます。以前のような右肩上がりの経済成長が実現できなくなると、どうしても分配の問題がクローズアップされてしまいます。つまり、右肩上がりの時代には、放っておいてもパイがどんどん大きくなっていったわけですから、国民の多くがそのパイの配分に与かることができました。しかし、低成長の時代はそうではありません。誰かの分け前を増やすには誰かの取り分を減らすしかありません。すなわち、日本全体でゼロサムゲームを行っていることになるわけで、格差問題が最近クローズアップされてきた所以です。ただし、いまマスコミ等で盛んに取り上げられているのはワーキングプアーなどの「貧困」が主ですが、実際には政府の経済活動を通じてこれからお話しするような「世代間の格差」も深刻な状況となっているのです。

世代会計とは?
    世代会計とは、現在の財政や社会保障等を中心とする政府の支出・収入構造と、今後実施されることが明らかにされている政策(例えば、年金支給年齢の引き上げ、医療保険の自己負担率引き上げなど)を、前提とした場合、どの世代が得をしどの世代が損をするのか、定量的に評価する枠組みで、1991年に Auerbach,Gokhale and Kotlikoff が"Generational Accounts: A Meaningful Alternative to Deficit Accounting" Tax Policy and the Economy で提唱したものです。Kotlikoff たちは、伝統的な「政府財政赤字」概念に対して、新古典派経済学の視点から新たな枠組みを提示しました。

    もう少し具体的に言うと、世代会計とは、現役世代や将来世代の負担を前提として成り立っている公的年金制度や医療制度等の政府の経済活動を世代間の損得勘定から評価するための手法であると言えます。

    すなわち、世代会計の根本には、政府の異時点間の予算制約式があり、無限の将来において政府を清算する場合(もしくは、政府が破産しないで永遠に存続できるとした場合)、将来世代の債権もしくは債務額がいくらになるかを現時点の金額で評価するものです。

 そのため、政府の異時点間の予算制約式、つまり、政府の支出・収入を、政府からサービスを受け取り、政府活動に伴う経費の負担を行う個人の側から再解釈することで、個人と政府の間の受益・負担関係を明らかにするものです。

 具体的には、税・社会保険料等は政府が個人から徴収するものですから負担(burden)、年金・医療等の給付(移転支出)は個人が政府から受け取るものですから受益(benefit)となります。
    
 この負担から受益を引いたものを純負担額(世代勘定)であり、それを年齢別に推計したものが世代会計です。

世代会計の留意点
   実際の世代会計を解釈する上で、注意しないといけないことが大まかに言うと4点あります。

(1)通常の世代会計では、推計時点ですでに生まれている世代にとっては、残りの生涯の期間における「負担」「受益」のみがカウントされるという点に留意する必要があります。つまり、生涯純負担が計算できるのは、推計時点で生まれたばかりの世代(新生児世代)とまだ生まれていない将来世代だけであり、この二世代の世代勘定のみ直接比較できるのです。
 
したがって、すべての世代の世代勘定を比較するには、過去分の受益負担を推計する必要があります。こうした過去分の受益負担を含めて各世代の世代勘定を計算し、生涯所得(賃金収入、年金収入等をすべて含んだ所得概念)に対する比率である生涯純税負担率という概念が現在では(新生児世代と将来世代の比較しかできない世代会計より)より重視されています。
 なお、この生涯純負担率の推計については、「世代別の受益と負担 〜社会保障制度を反映した世代会計モデルによる分析〜」内閣府経済社会総合研究所ESRI Discussion Paper series No.217をご覧下さい。


(2)政府支出のうち、なにを政府から個人への「移転(transfer)」と考えるかで、世代会計の大きさが違ってきます。ちなみに、わが国の世代会計の試算(特に、内閣府の試算)では、「教育支出」や「社会資本ストックからの便益」を「移転=受益」として含む場合があります。

(3)世代会計分析はいわゆる「部分均衡分析」で、「一般均衡効果」については捨象しています。つまり、増税などある政策の変化は、本来であれば、家計や企業の行動を変化させるので、経済状況(経済成長率や利子率)も影響を受けるのですが、世代会計では、簡単化のため、政策の変化が家計や企業、マクロ経済に与える影響を無視して考えます。

(4)世代会計では、世代間の格差については論じることができますが、世代内の格差については、論じることができません。つまり、政府の債務を「誰が」払うのかという問題に答えるためには、「どの世代が」払うのかだけでなく、「その世代の誰が」払うのかについても考えなければなりませんが、データの制約もあり、今のところ、世代内再分配までは踏み込めてはいません。

世代会計の基本方程式
世代会計について、次の簡略化した例で見てみましょう。

まず、政府支出 G は、その受益が特定の世代に帰着する「移転給付 B 」と、特定の世代には帰着しない「政府消費支出 C 」とに分けられるとします。政府収入である税や社会保障負担等の負担 T はすべて特定の世代に帰着できるものとします。また、政府は純債務 D を持っているとします。

このとき、政府の異時点間の予算制約式は

G+D=T・・・(1)と書けます。

次に、世代を時間で2つに区分し、現在すでに存在している世代を「現在世代 NP」、まだ生まれておらずこれから生まれてくる世代を「将来世代 NF 」とします。

現在世代の移転給付を BP、租税等負担を TP、将来世代の移転給付を BF、租税等負担を TF とすると、先の(1)式は、

BP+BF+C+D=TP+TF・・・(2)

となります。

この(2)式を現在世代と将来世代の受益と負担に注目して純負担の観点から書き換えると、

(TP-BP)+(TF-BF)=C+D・・・(3)

とできます。

ここで、Ti-Bi(i=P,F)は負担から受益を引いたものなので第i世代の生涯純負担額もしくは世代勘定と言います。

このとき、現在世代の世代勘定を GAP、将来世代の世代勘定を GAF とすると、結局、政府の異時点間の予算制約式(1)式から、各世代の受益と負担の観点から書き換えると、

世代会計の基本方程式   GAP+GAF=C+D・・・(4)

が得られることが分かります。

言い換えると、世代会計の基本方程式は、

現在世代の世代勘定+将来世代の世代勘定=特定の世代に帰着しない政府消費+政府純債務・・・(4’)

となります。 したがって(4’)式をさらに変形した下式から、政府の異時点間の予算制約式が維持されるとする場合(つまり、政府が将来時点においても破綻しないとする場合)、現在世代の負担を軽くすると将来世代の負担が重くなり、現在世代の負担を重くすると将来世代の負担が軽くなる 、ことが分かります。

将来世代の世代勘定 = 特定の世代に帰着しない政府消費 + 政府純債務−現在世代の世代勘定(GAF=C+D-GAP)


さらに、特定の世代には帰着しない「政府消費支出 C 」が少ないほど、つまり、受益にカウントできる部分が多ければ多いほど、各世代の世代勘定が改善することも分かります。

つまり、現実の政府活動から派生する受益と負担の関係にはゼロサムゲーム的な状況があること、あるいは 政策変更には必ず世代間における利害対立がともなうことが明らかになります。

また、わが国は、他のOECD諸国と比べても、租税負担率が低く(例えば、財務省 OECD諸国の租税負担率)、その結果公債依存度(図_公債依存度の推移)や政府債務残高(図_政府債務残高の国際比較)が大きくなっています。
世代会計の基本方程式(4)式から明らかなように、このような状況は、現在の政府活動にかかる経費を将来世代に付け回していることになります(現在世代のフリーライド)。
さらに、高齢になるほどより手厚い現在の日本の社会保障構造を維持したまま、少子化が進行しすると、少ない人数でよりコストの大きな多くの高齢者の面倒を見なければならなくなるため、将来世代の一人当たりの純負担額が大きくなってしまいます。

世代間公平原則
世代会計の生みの親であるKotlikoffは世代会計の推計時点に生まれた新生児世代と将来世代の世代勘定が一致するとき、
世代間の公平性が保たれた政策(generational policy)、としています。

このように、世代会計の問題意識あるいはそれから導き出される世代間の公平性が保たれた政策は、生まれた年が異なるだけで政府との取引(社会保障、租税等)において、大幅に損をする世代や得をする世代があってもいいのか?、というものであると言えます(さらに、わが国では、終身雇用制度、年功序列賃金等の日本型雇用も若い世代の負担を大きくしていると言えます)。

世代会計の推計
本試算はデータの更新などで修正される場合が(よく)あります
いよいよ実際に2005年現在のわが国の世代会計を推計してみましょう。推計に使用するデータは、内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部が毎年作成・公表している『国民経済計算年報』の最新版(平成21年)を用いています(平成21年6月15日現在)。

2005年現在のわが国の世代会計                               (単位:千円)
世代会計 受益 負担
0 16,140 15,190 31,330
5 18,657 16,108 34,766
10 21,144 17,549 38,693
15 23,767 19,271 43,037
20 26,376 21,024 47,399
25 26,308 21,482 47,790
30 25,258 21,939 47,197
35 23,473 22,505 45,978
40 20,322 23,235 43,556
45 15,122 24,206 39,328
50 7,977 25,632 33,609
55 -306 27,489 27,183
60 -9,645 30,188 20,543
65 -14,338 30,528 16,190
70 -14,108 27,355 13,247
75 -11,959 22,793 10,834
80 -9,721 18,181 8,461
85 -7,170 13,447 6,278
90 -4,159 8,353 4,194
将来世代 100,378
世代間不均衡(%) 521.9

推計結果から、2005年に生まれたばかりの新生児世代と将来世代の格差は6倍以上に及んでいることが分かります。

補正予算が世代間不均衡に与える効果
「100年に1度」の経済危機に対応するため、政府は総額15.4兆円にも及ぶ補正予算を成立させました。このうち、10.8兆円を新規国債発行で賄う予定です。
こうした歳出規模の拡大は、例外措置として次年度もしくは景気刺激策が不要となったらすぐにもとの規模に縮小できれば良いのですが、往々にして例外的な規模が常態化しがちです。
もし、今般の歳出規模が今後も持続されたとしたら、将来世代の負担はどの程度大きくなってしまうのでしょうか? 要すれば、今般の景気刺激策が@本年度限りの場合、A今後も同規模の歳出水準が継続された場合の2通りについて、将来世代の世代会計に与える効果を試算してみました。
それによると、
@の場合には、将来世代の負担は50万円弱ほど増加し、世代間不均衡は3%ポイント上昇するAの場合では、将来世代の負担は1400万円ほど増加し、世代間不均衡は90%ポイント弱上昇する、との結果が得られました。
したがって、経済危機が去ったら、通常の歳出規模へ速やかに戻すことが、将来世代の負担を必要以上に増やさないためになによりも重要だと言えます。


世代間格差の国際比較
わが国を含む先進国では、医療や年金を通じて若い世代から高齢世代への資源の再分配が行われていますが、わが国の世代間格差は諸外国と比較した場合、どの程度大きいといえるのでしょうか?

世代間不均衡の国際比較(1995年世代会計)
国名 世代間不均衡(%) 国名 世代間不均衡(%)
アメリカ 51.1 ニュージーランド -3.4
ドイツ 92.0 フランス 47.1
イタリア 131.8 ノルウェー 63.2
カナダ 0.0 ポルトガル 59.7
タイ -88.0 スウェーデン -22.2
オーストラリア 32.2 アルゼンチン 58.6
デンマーク 46.9 ベルギー 58.0
オランダ 76.0 ブラジル 88.8
日本 521.9

(出典) Auerbach, Kotlikoff and Leibfritz Generational accounting around the world 1999 The University of Chicago Press
Note: 日本の世代間不均衡は島澤・山下『孫は祖父より1億円損をする』2009年 朝日新書で使用されている推計の改訂版Auerbach, Kotlikoff and Leibfritz (1999) では169.3%。

上の表からも明らかなように、推計年次がやや古く、必ずしも現状を的確に表している訳ではないことに留意する必要がありますが、わが国の世代間不均衡は、諸外国と比較しても群を抜いて大きいことが分かります。つまり、わが国は、諸外国にはまったく例のない異常なまでの大きさで将来世代への付け回しがなされている国であると言えるのです。


シルバー・ポリティクス
例えば、現在、消えた年金や後期高齢者医療制度が政治問題化していますが、2005年に生まれたばかりの世代と将来世代の負担の差は、現在の価値に直して1億円以上ある(1億円以上損をしている)わけですから、将来世代にとっては、純受益世代が消えた年金(ぐらいの金額のこと)で大騒ぎするのだったら、自分たちの負担削減についてももっとまじめに議論してくれ!となるでしょう。
しかし、わが国では、有権者の高齢化が進んでいるため(頭数だけではなく実際に投票に行く人数も)、高齢者に不利な政策は採用されない傾向が今後も続いていくと思われます


※ 小島明日本経済研究センター特別顧問のコラム「シルバー・デモクラシーと若者の悲哀
    
日本経済新聞  「風見鶏 シルバー民主主義の重み」 2008年6月1日
    
「高齢者医療で露呈シルバー民主主義の危うさ」WEDGE 8月号
    杉浦哲郎みずほ総合研究所チーフエコノミスト 「高齢者主権がもたらすバイアス
    
内田満・岩渕勝好『エイジングの政治学』早稲田大学出版部 1999年

第44回衆議院選挙(2005年9月)における平均年齢など
日本人 投票者 投票者(2055年)
平均年齢 44.4歳 52.8歳 55.5歳
中位年齢 45.5歳 53.5歳 60.5歳

(備考)
2055年時点における投票者については、
(1)年齢別投票率は第44回衆議院選挙(2005年9月)と同じと仮定。
(2)国立社会保障・人口問題研究所の中位推計を用いた。

全投票者に占める年齢別投票者の割合(%)
年齢階級  割合  累積 
20-24 4.46 4.46
25-29 5.66 10.12
30-34 7.78 17.90
35-39 7.77 25.67
40-44 8.01 33.68
45-49 8.07 41.75
50-54 9.52 51.27
55-59 11.61 62.88
60-64 10.07 72.95
65-69 8.89 81.83
70-74 7.69 89.52
75-79 5.69 95.21
80+ 4.79 100.00
100.00

上の2つの表から、(1)投票者の平均年齢は50歳を越えていること、(2)すでに実際の投票者に占めるいわゆる団塊の世代以上の人々の割合は半分近くに達していること、(3)いまからおよそ50年後には中位投票者の年齢が60歳を上回ること、などが分かります。
つまり、いまの選挙制度を前提とすると、そう遠くない将来に、
老人の、老人による、老人のための政治が実現してしまうことになってしまうでしょう。

こうした問題の解決策として、井堀利宏東京大学大学院経済学研究科教授が提案しているのが、
年齢別選挙区の導入です。 井堀先生の提案によれば、20歳代・30歳代を青年区、40歳代・50歳代を中年区、60歳以上を老年区に分け、それぞれの有権者数に応じて代表を選出することになります。

井堀利宏・土居丈朗 『日本政治の経済分析』 木鐸社 1998年
    
井堀利宏経済学で読み解く日本の政治』 東洋経済新報社 1999年

選挙や政治を経済学的に分析した専門書としては以下が代表的です。
Persson and Tabellini Political Economics: Explaining Economic Policy The MIT Press
Drazen Political Economy in Macroeconomics Princeton Univesity Press
ブライアン・カプラン『選挙の経済学 投票者はなぜ愚策を選ぶのか』日経BP社
ウィリアム・バウンドストーン『選挙のパラドクス―なぜあの人が選ばれるのか?』青土社

年金負担・給付の世代間格差
厚生労働省は、5年毎に国民年金と厚生年金の財政に関する見通しを公表しています(財政検証)。
この『平成21年 財政検証』を見ると、下表から明らかなように、年金負担・給付(あるいはその比率)において厳然として世代間格差が存在していること分かります。もっとも、厚生労働省は、どの世代でも見ても負担額以上に給付を受けられるので、世代間の不公平性や制度の持続可能性に関する懸念は存在しないという見方を補強する材料として使用していますが。

世代別の年金給付倍率
   70歳  60歳   50歳   40歳   30歳   20歳   10歳   0歳
負担額   900万円  1200万円  1800万円 2400万円  3000万円  3600万円  4200万円  4900万円 
給付額   5600万円 4700万円  5100万円  5900万円  7000万円   8300万円  9700万円  11200万円
倍率  6.5  3.9  2.9  2.5  2.3  2.3  2.3  2.3 

注 各世代は2005年時点の年齢

(参考) 平成16年財政再計算結果における世代別の年金給付倍率
   70歳  60歳   50歳   40歳   30歳   20歳   10歳   0歳
負担額   680万円  1200万円  1900万円 2800万円  3900万円  5100万円  6500万円  8000万円 
給付額   4400万円 4500万円  5600万円  7600万円  9600万円   12000万円  14900万円  18300万円
倍率  6.4  3.8  3.0  2.7  2.4  2.3  2.3  2.3 


見方を変えれば、厚生労働省も公的年金における世代間格差を認めているとも言えるでしょう。その上で、同報告書を読むと、厚生労働省がいかに現在の公的年金制度を正当化するかということに汲々としているかが分かります。

ただし、上の年金倍率は、自己負担分だけをカウントしており、事業所負担分を無視していますので、経済学的には不完全な数値となっています。
そこで、事業所負担分は本来であれば賃金に上乗せされて本人に支払われたはずだという経済学的な考え方に立って負担額を計算し直して給付負担倍率を計算し直すと、下表の通りです。

世代別の年金給付倍率(事業所負担分含む)
   70歳  60歳   50歳   40歳   30歳   20歳   10歳   0歳
負担額  1800万円  2400万円  3600万円 4800万円 6000万円 7200万円 8400万円 9800万円
給付額   5600万円 4700万円  5100万円  5900万円  7000万円   8300万円  9700万円  11200万円
倍率  3.25  1.95  1.45  1.25  1.15  1.15  1.15  1.15 

注 各世代は2005年時点の年齢

この場合、若い世代ではかろうじて1倍を超える結果となります。

こうした年金給付率格差問題に対して、「もし高度成長期に、高額の保険料を国民に課していたなら経済成長は難しかった可能性もある。世代間の損得を論じるのではなく、高齢化に伴う年金財政の負担を各世代でどう共有すべきかを考えるべきだ」という反論があります。例えば、駒村康平『大貧困社会』角川SSC新書 2009年。
私は、後半に関しては全く同感ですが、前半部分に関しては同意できません。
なぜなら、戦後の公的年金制度の創設期・拡充期に相応の負担を現在の高齢者に課した結果、その当時高い成長は実現できなかった可能性があるとしても、逆に、現在、現役世代の負担が軽減されるためいまより高い成長率を謳歌している可能性があると言えるからです。
もう一つ、厚労省や厚労省応援団が見落としているのは、払った以上に貰えるということは、誰かがその差額を負担しているという、まさに世代会計が明らかにしてきた視点です。世代会計によれば、それは「目に見えない債務」としてより若い世代や将来世代の負担としてツケ回されていることになり、その点をどう解決するのかこそが年金問題ひいては世代間格差を是正する上で欠かすことができない視点なのです。
したがって、『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った? ~世界一わかりやすい経済の本~(扶桑社新書)で年金問題を国民年金の未納問題に矮小化し、「年金を貰えないのは未納者だけ。」「払っている人は払った以上に貰えるから大丈夫。」などと厚労省の主張を垂れ流すだけの細野真宏氏には、現行の公的年金制度が生み出す「目に見えない債務」や「若い世代の(加重な)負担」をどう考えているのか聞いてみたいものです(そもそも、年金未納者は、将来年金を貰えないので、その多くは生活保護受給者とならざるを得ず、結局、若い世代が税金で負担することになります。年金制度だけが維持されれば細野氏はそれでよいという立場、つまり若い世代の負担がどうなろうと知ったことではないということなのでしょう)。


雇用・賃金面での世代間格差
『平成17年度 経済財政白書』によれば、雇用・賃金面でも世代間格差が大きいことが指摘されています。
つまり、同白書によれば、
(1)いわゆる「団塊の世代」は、企業の人件費負担の押し上げ要因として働いてきた、
(2)1990年以降少なくとも2000年代初頭まで、労働分配率を0.2〜0.9%ポイント押し上げてきた、
(3)こうした団塊の世代を中心とする高年齢雇用者の重い賃金負担が、90年代後半以降の若年層の雇用を減少させた、
(4)高齢雇用者比率と若年雇用者比率の間には負の相関関係が存在し、高齢雇用者比率が高ければ、新規学卒者等若年雇用者の採用が抑制された、
としています。
結局、バブル崩壊以降、デフレ期を通じて、高齢者層は自らの雇用の確保を最優先するために、若者の雇用を抑制し、非正規労働者として「搾取」してきたのです。同様の愚行を再び繰り返そうとしてるのが、現在の「派遣切り」と称される現状でしょう。
また、以前「技能継承問題」が盛んに取り上げられましたが、高齢者の雇用維持を最優先にし若者の雇用を後回しにしてきた企業自らの姿勢が問われていたわけで、自分たちのしてきたことを棚に上げて「なにをいまさら」といった問題でもあります。
年齢別の失業率を見ても、高齢な世代ほど、勤労期を通じて、平均的な失業のリスクは低かったことが分かります。なお、一律の定年年齢を定めている企業のうち半数以上で定年年齢が60歳を超えたのは1984年からです。そのため、戦前生まれ世代では60歳時点における失業率が高くなっています。ちなみに、1944年の制度開始時点で55歳から支給された年金は、1954年改正では男性が1957年から16年かけて段階的に60歳に、女性は1985年改正で1987年から12年かけて60歳へと引き上げられ、定年年齢と年金支給開始年齢の整合化が図られています。

各世代の年齢別失業率の推移


雇用面での世代間格差については、以下の本が代表的です。
城 繁幸若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来』 光文社新書 2006年
城 繁幸『たった1%の賃下げが99%を幸せにする』 東洋経済新報社 2009年

世代別金融資産・負債残高
わが国の世代別の保有金融資産・負債残高を見てみると、高齢(60歳以上)になるほどグロス(粗)でみてもネット(純)で見ても多くの金融資産を保有していることが分かります。
具体的には、内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部『国民経済計算』によれば、平成19年度末現在わが国の家計が保有している金融資産は約1456兆円、負債は約381兆円であるので、家計調査から得られる世代別の金融資産・負債比率を使って、年齢階層別に割り振ると、金融資産では、40歳未満の世代が約90兆円に過ぎないのに対し、60歳以上の高齢者世代は約880兆円、金融負債では、逆に、40歳未満の世代が約105兆円であるのに対し、60歳以上の高齢者世代は約51兆円に過ぎません。
しかも、ネットで見ると、40歳未満は赤字世代であるのに対し、60歳以上は大幅な黒字世代ということになります。
また、どの世代がわが国の資産をどの程度保有しているのかそのウェイトを見ると、60歳以上の高齢者はわが国の金融資産の6割を保有しているのに対して、40歳未満の世代では(たった)6%を保有しているに過ぎないのです。

世代別金融資産残高


世代別金融負債残高


資産の面から評価すると、「裕福な高齢者」に対して「貧しい若者」という図式が浮かび上がってくるでしょう。
したがって、資産課税を強化し、それを財源とする若者政策を行うなどして、高齢者から若者へというこれまでとは反対方向の世代間の資源再分配を行う必要があるといえます。


世代間の所得再分配の現状
わが国の所得再分配の現状を下表で見ると、高齢(60歳以上)になるほど当初所得を再分配後の所得が上回っていくことが分かります。特に、高齢者世代は、34歳以下世代を概ね上回る所得水準を享受していることが分かります。

29- 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-69 70-74 75+
当初所得 (a) 274.7 506.2 560.1 676.6 732.3 738.8 730.2 434.3 305.7 183.8 198.1
再分配所得 (b) 259.0 463.9 516.4 610.0 672.2 703.9 673.4 528.0 518.2 445.4 498.6
再分配係数 (b)÷(a) 0.943 0.916 0.921 0.902 0.918 0.953 0.922 1.216 1.695 2.423 2.517
拠出合計 37.5 85.7 101.0 126.7 142.0 146.5 153.8 96.5 74.1 53.1 55.3
  税金 12.7 33.6 43.2 56.8 65.4 67.8 76.1 47.3 35.0 24.1 26.5
  社会保険料 24.8 52.0 57.8 69.9 76.6 78.7 77.8 49.2 39.1 29.0 28.8
    うち年金 14.7 29.5 33.3 37.9 40.8 41.8 41.6 20.9 10.7 6.4 7.9
    うち医療 8.8 19.7 21.2 25.9 28.6 29.6 29.0 23.7 22.0 16.2 14.8
    うち介護・その他 1.3 2.8 3.4 6.2 7.2 7.4 7.2 4.6 6.3 6.4 6.1
受給合計 21.9 43.4 57.4 60.0 81.9 111.6 97.0 190.1 286.6 314.7 355.8
  現金給付 4.8 9.0 15.4 18.6 34.6 35.8 29.0 119.7 203.5 223.8 204.8
  現物給付 17.1 34.3 42.0 41.4 47.4 75.8 68.0 70.4 83.1 90.9 151.1
    うち医療 10.6 18.8 25.4 34.7 40.7 60.8 51.8 57.2 67.4 77.8 124.5
    うち介護 0.5 0.3 3.6 0.1 5.7 15.0 15.5 11.4 13.4 12.3 26.4

(出典) 厚生労働省『所得再分配調査』2005年

金融資産の6割を高齢者が保有している現状から見ても、果たして、このような「過大」な再分配は必要なのでしょうか? そろそろ高齢者を一括りにして「経済的弱者」と考える政策を転換してもよい時期に来ている、つまり若者→高齢者という世代間扶養から、高齢者⇔高齢者という世代内扶養のあり方を議論する時期に来ているのではないでしょうか?


家族・子ども向け政府支出の国際比較
わが国の子ども向け政府支出の大きさをOECD諸国と比較してみると、その(驚異的な)低さが際立っていることが分かります。

OECD諸国における家族・子ども向け政府支出の比較

(データ出典) OECD Social Expenditure Database (SOCX 2008 )

子ども向け政府支出のOECD平均がGDP比で2%であるのに対し、わが国のそれは0.8%でしかありません。これは、韓国、アメリカに次いで3番目に低い数字です。

また、わが国における家族・子ども向け政府支出の低さは、高齢者向け政府支出の大きさと比較するとさらにいっそう際立って見えます。

OECD諸国における高齢者向け政府支出の比較

(データ出典) OECD Social Expenditure Database (Socx 2008)

この問題に関しては、阿部彩『子どもの貧困―日本の不公平を考える』(岩波新書)や山野良一『子どもの最貧国・日本』(光文社新書)が大変よくまとまっていて必読の文献と言えます。


まとめ
結局、現状のような若い世代に負担を押しつける状況が継続していけば、(不毛な)世代間対立が激化してくことが容易に予想されます。世代会計にはさまざまな批判はありますが、世代間の負担の格差、という観点から(ともすれば高齢者に迎合しがちな)政治に規律を与える、つまり若い世代をもっと大切に扱えという圧力を与えるという役割を果たせると考えられます。
要すれば、世代会計を用いることで、政府の行うべき世代間の所得再分配政策の範囲を確定させ、特定の世代に過度な負担を負わせずに持続可能な社会保障制度を検討することができるのです。

繰り返しになりますが、世代会計とは、結局、損をする世代、得をする世代を特定化することで世代間対立を煽るのが目的ではなく、全ての世代が共存可能な、持続的な財政・社会保障制度を構築するための材料を提供するのが目的なのです。



参考文献/References
専門文献
Auerbach,Gokhale and Kotlikoff, (1991), "Generational Accounts: A Meaningful Alternative to Deficit Accounting", Tax Policy and the Economy vol.5 pp.55-110.
Auerbach, Gokhale and Kotlikoff , (1994), "Generational Accounting: A Meaningful Way to Evaluate Fiscal Policy ," Journal of Economic Perspectives, vol. 8(1), pp.73-94.
Bonin, Holger Generational Accounting: Theory and Application 2001 Springer, Berlin.
Haveman, (1994), "Should Generational Accounts Replace Public Budgets and Deficits?" Journal of Economic Perspectives, vol.8(1), pp.95-111.
U.S.Congressional Budget Office, (1995), "Who Pays and When? An Assessment of Generational Accounting"
Buiter, (1997), "Generational Accounts, Aggregate Saving and Intergenerational Distribution," Economica, vol.64, pp.605-626.
Auerbach, Kotlikoff and Leibfritz Generational Accounting Around the World 1999 The University of Chicago Press

吉田浩, (2006), 「世代会計による高齢化と世代間不均衡に関する研究(わが国の世代会計の第一人者によるもので、世代会計に対する批判と反論や、推計方法が詳しく紹介されている必読の文献です)
島澤諭, 「財政再建が世代間不均衡に与える影響について−世代会計による定量的な分析−早稲田大学現代政治経済研究所 Working Paper Series No.0604 2007年
島澤諭, 「2005年度基準世代会計の推計/Generational Accounting: The Case of Japan
日本語本文] Abstract in English
abstract ver 1.0
内田満・岩渕勝好『エイジングの政治学』早稲田大学出版部 1999年
井堀利宏『誰から取り、誰に与えるか―格差と再分配の政治経済学』東洋経済新報社 2009年
鈴木 亘『だまされないための年金・医療・介護入門―社会保障改革の正しい見方・考え方』東洋経済新報社 2009年
↑本書は、世代間格差の大部分を占める社会保障制度に関する書籍です。

一般書
コトリコフ著、香西泰監訳『世代の経済学―誰が得をし、誰が損をするのか』日本経済新聞社 1993年
ポール・ウォーレス 『人口ピラミッドがひっくり返るとき―高齢化社会の経済新ルール』草思社 2001年
コトリコフ、バーンズ著、中川治子訳『破産する未来 少子高齢化と米国経済』日本経済新聞社 2005年
シルマッハー著、佐藤正明訳『老人が社会と戦争をはじめるとき 超高齢化社会をいかに生きるか』ソフトバンククリエイティブ 2005年
スターリング、ウェイト著、田中浩子訳『団塊世代の経済学』日経BP社 2000年
立木信『世代間最終戦争』東洋経済新報社 2006年
立木信『若者を喰い物にし続ける社会』洋泉社新書 2007年
トラスト立木『この国の経済常識はウソばかり』洋泉社新書 2008年
島澤諭、山下努『孫は祖父より1億円損をする 世代会計が示す格差・日本』朝日新書171 2009年4月
森川友義『若者は、選挙に行かないせいで、四〇〇〇万円も損してる!?』ディスカヴァー携書 2009年
森川友義『どうする!依存大国ニッポン』ディスカヴァー携書 2009年
池田信夫『希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学』ダイヤモンド社 2009年


研究者/Reserchers around the world
Prof. Kotlikoff (U.S.) http://people.bu.edu/kotlikoff/
Prof. Auerbach (U.S.) http://www.econ.berkeley.edu/econ/faculty/auerbach_a.shtml
Prof. Raffelhuschen (Germany) http://www.uni-freiburg.de/
Prof. Mayr (Austria) http://www.econ.jku.at/Mayr/
吉田浩東北大教授 / Prof. Yoshida (Japan) http://www.econ.tohoku.ac.jp/~hyoshida/


その他/others
若者の会 http://space.geocities.jp/monoiu_wakamono/



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